メガネの可能性は無限に。終わりなき技術革新への挑戦
研究者の情熱がまったく新しい素材を生み出し、その素材の魅力を引き出すための技術力が、美しい完成度のみならず、今まで経験したことの無い快適な掛け心地のメガネフレームを実現しました。メガネの可能性を無限に広げるために、終わりなき技術革新、飽くなき企業努力は続きます。
多田は、新素材開発のプロジェクトを遂行するにあたり、より高度な知識と技術を持つ専門家の力が必要だと考え、金属研究の世界的権威である東北大学金属材料研究所の協力を仰ぎました。しかし、その協力があっても困難を極めるプロジェクトとなりました。それは、製品として量産化したときに、お客様の手元で実力を長年発揮できる高品質な素材でなければならないからでした。実験上、素材特性において成功していても、実際に製品化する際に多くの問題が起こったのです。例えば、塗装やメッキをすることで、掛け心地の良さを実現するバネ性を失ってしまったり、メガネを製造する際の熱によりまったく違う素材特性になってしまったり、やっと1本のメガネの形にすることができても自社に設けた厳しい品質テストをクリアすることができなかったりと。
ひとつの問題をクリアすると、また新しい問題が起こる、そんなことの連続でした。なかなか進まない開発状況により、プロジェクト自体が存続の危機にさらされることも何度もありました。しかし、その度に東北大学金属材料研究所の経験と知恵、そして、「より快適なメガネを提供したい!」という多田をはじめとする開発チームの情熱により、乗り越えてきたのです。そして、2009年春、ついに夢の素材"エクセレンスチタン"は完成しました。この素材を使用したメガネは、これまでに見たことのないデザインと誰も体感したことのない掛け心地の良さを実現したものでした。実に開発をスタートさせてから、8年以上の歳月が経っていました。
幾多もの困難を乗り越えた末に辿り着いたもの
メガネフレーム素材としてよりよいものを。これが生産技術部技術開発課の多田弘幸に課せられたミッションでした。当然それは、安全で、デザインの自由度を高める為に加工がしやすく、そして、何よりも掛け心地の良いメガネを創ることができる素材でなければなりません。これまで当社では、チタンを応用した「Zチタン」という素材をメガネフレームに採用し、その高い柔軟性による掛け心地のよさと医療分野にも使われる安全性で、人気を博してきました。しかし、より高みを目指す社の方針により、「夢の素材」開発に突入することとなったのです。
ひと口に素材開発といっても、それは途方もない時間と労力がかかるもので、一般的に早くて10年、時には20年以上もかかってしまうこともあります。それくらい素材開発は難易度の高いプロジェクトで、事実、「メガネフレームメーカーなのだから、素材は素材メーカーに任せたほうがいい」という意見も社内から挙がっていました。しかし、多田の考えは違いました。「長年、メガネフレーム製造に携わっているからこそ、どんなメガネフレーム素材が求められているか分かるのです。だから、我々はやってやろうと!」。こうして技術者・多田の挑戦は始まりました。
STORY 1
技術者の意地と気迫が生んだ素材「エクセレンスチタン」
しかし、レーザ接合技術をメガネフレームに技術応用するのは簡単なことではありませんでした。車や飛行機の部品の接合の場合、接合した上からまた違う部品を被せたりする為、接合部分の美しさはそれほど求められてはいません。一方で、メガネは非常に小さく繊細なものですし、また、顔という人の印象を左右するパートを担うメガネフレームは誰もがその仕上がりを気にします。なにしろ、人が乗ることができる車に使用する技術をその何千分の1の大きさのメガネに応用するわけですから、開発は困難の連続でした。しかし、「メガネの可能性を無限に広げる為に、新しい接合技術を開発したい」、その一心で中村は、大阪大学接合科学研究所の方々とともに開発に励んだのです。そして、2009年、エクセレンスチタンの開発と時を同じくして、小さな部位でも接合可能である、微細レーザ接合技術がついに本格的な実用化に至りました。
この技術により、素材の特性を失うことがなく高い強度での接合が可能になりました。さらに、これまで考えられなかった1mm以下という非常に細かいラインの接合も出来るようになり、美しさと実用性を兼ね備えたメガネフレームの製造が実現出来るようになったのです。夢の素材エクセレンスチタンを使用した、シャルマンの代表作「ラインアート シャルマン」は、この技術なくして完成することはありませんでした。
メガネに無限の可能性をもたらす「エクセレンスチタン」と「レーザ微細接合」
エクセレンスチタンの素材の特性を最大限に引き出す為には、従来にはない、まったく新しい溶接技術が不可欠でした。偶然にもエクセレンスチタンの素材開発と時をほぼ同じくして、溶接技術の研究開発が進んでいました。接合技術開発担当の中村浩が、ふくい産業支援センターの協力のもとレーザ接合技術の世界的権威である大阪大学接合科学研究所と接合技術の開発に取り組むことに決まっていたのです。
通常、メガネの製造工程では金属と金属を接合する為にろう付けと呼ばれる溶接作業を行いますが、ろう付けではその加熱範囲の大きさにより母材が軟化したり、金属の組織変化が起こる可能性、さらに、ろう離れという接合部分がはがれてしまう可能性があります。もちろん、私たちシャルマングループは、さまざまな不具合が起こらないようにこのろう付けの技術を改良し、その技術は、完成の域に達していると言えます。しかし、メガネの可能性をより広げる為には、ろう付けではない新たな接合技術の開発が不可欠でした。そこで、着目したのが車や飛行機の部品の接合に用いられ、非常に高強度の接合が可能なレーザ接合技術のメガネへの応用だったのです。
STORY 2
最高の素材には最高の接合技術が不可欠だった