メディカル事業への挑戦
シャルマンのメガネフレームは、およそ600種類に上る。それらすべてが、エクセレンスチタン製というわけではなく、様々な特性のあるチタンの使い分けや他の素材との組み合わせでつくられている。それもこれも先の研究開発の賜物であるが、そのチタンと接合技術、精密加工技術を駆使して、メガネ屋が新たな分野に乗り出した。
医療機器の製造である。
「掛け心地」と金属アレルギーを考えてのチタン開発であったが、チタンは、軽量で強靭でいて、さらに「非磁気性」であり、耐食性にも優れていることから、医療機器にはうってつけの素材であった。
大きく分けただけでも5種類以上あるチタン材に加えて、ステンレスなど他の金属の特性も熟知している。そのうえ、金型や治具をつくること、また専用機などを内製化できるシャルマンだけに、これまでになかった、用途に応じた「使い勝手」に長けた道具を素材の組み合わせと、その接合によって可能にしたのだ。
さらに超精密加工と表面処理の技術により、例えば、血管の手術や脳の手術など、微細でありながら正確に機能を果たし、他所を傷つけない道具をつくり得た。
これまでの既成の医療機器メーカーが持ち合わせない様々なスキルをシャルマンは持っていたのだ。
とはいえ……只々無謀である……
耳にかけ、鼻にのせるメガネとあまりにも違いすぎる。だが、確かな勝算も担保もなく開発に着手をした。
まずは、教えを乞うこと。日本屈指の眼科手術医に相談を持ちかけた。そして、試行錯誤の結果、十分に満足のいく機器を完成させた。
手術機器は、各々の医師自身の手、指の感覚がスムーズに伝わることが、なによりも求められる。また、繊細な手術だけに手術時間も長い。だから、好みの感触に合わせられ、それで軽量でなくてはならない。
やはりチタンが最も適していた。が……メガネづくりのノウハウでは克服できない重要な部品があった。刃である。ことにハサミであった。開発をはじめて1年半が過ぎても、各分野の手術医から納得のいく評価がもらえないでいた。そこで、国内外で定評のある理・美容のハサミメーカーに押しかけて、仕上げをお願いしたところ、あっさりと断られた。
しかし、「ハサミとハサミをつくるための理論は教える」といってもらえ、都合数十時間の教えを受け、刃物とハサミを知ることが出来た。
さらに、福井には7百年の伝統を誇る「越前打刃物」があり、そこの材料メーカーからハサミに適している特殊鋼を手に入れることが出来た。知識と材、ここまでそろえば……最新のNC工作機やレーザ溶接によって、素材特性を見極め、適材適所に4種類の素材を接合して、超高機能なハサミをつくりあげた。早速、ハサミを脳外科の手術医に見せたところ、その病院のハサミがシャルマン製となった。さらに噂は広まり、世界的にも有名な「神の手」と呼ばれる脳外科医から、130種類にも及ぶ、すべての手術機器の注文を受けるに至ったのだ。

これは零細下請け町工場の根性物語ではない。 本質を知ること……
道具には何が必要なのか?
その根元に対して、何よりも「知識」を乞うこと。商いの上でも、技術の面でもである。 そして……
何が不足しているのか?
何を持ち合わせているのか?
それらを整え、複合、応用、転用して試行錯誤する。小手先ではなく、様々な積み重ねによってモノをつくる。それがメイドイン・日本なのだ。そう信じ我々はモノづくりに努めている。
